スタートアップいわて

INTERVIEW

インタビュー

感謝の声から必要性を見出し起業
生きがいにつながる訪問美容を提供

株式会社TONAN
代表取締役CEO 中田将太さん(30)

岩手県矢巾町出身

経歴

2015年12月
学生時代に釜石市のベンチャー企業でインターン
2017年2月
株式会社TONAN創業
2023年9月
訪問理美容師マッチングサービス「サパット」リリース
2024年3月
東北ソーシャルイノベーション大賞受賞

EPISODE

お客様の感謝が気付きに 役立つ価値を提供したい

起業したきっかけを教えてください

 大学進学で東京に行き、当初は卒業後に東京の大手企業で5年、10年働き、岩手に帰ってくる青写真を描いていました。大学3年の時に留年したことで、改めて自分の人生を考えました。その中で、起業という選択肢があることを知ります。自分で商売をするには何が必要か学ぶため、釜石市のKAMAROQ(カマロク)というベンチャー企業で1年間インターンをしました。当時20代の社長に「1年後に起業したい」と話すと、議事録の取り方から商談まで様々な実務をやらせてくれました。
 インターン後、起業することは決めていましたが、何をやるかは全く決まっていない状態でした。当時、美容室を経営する母親が定休日などに訪問美容をしていました。ある時、母親から暇だったら手伝ってと言われ、私は運転手として訪問美容に着いていくことになりました。
 その時のお客様は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で、寝たきりの状態でした。髪を切り終えて出ていく時にお客様が私の手を握り、マウスを操作してモニターに「あきらめていた。ありがとう」と感謝を示してくれました。お客様は1年前に発症し、毎月行っていた美容室に行けなくなり、髪も白髪で伸び放題でした。「どうして自分が苦しい思いをしなければならないのかと思ったが、髪を切るだけで救われる」。お客様本人とヘルパーさんが涙を流す姿に、私は稲妻が走りました。
 自分のビジネスで大切にし続けていきたいことは、困っている人たちに対して役立つ価値を提供していくことだと思いました。体力的にも母親が訪問美容を辞め、店舗に専念しようか考えていた時期でもありました。自分が事業としてきちんと成り立つような仕組みを作ろうと訪問美容と美容室の店舗経営を引き継ぐ形で株式会社TONANを立ち上げました。

EPISODE

広がる訪問美容 美容師とお客様を結ぶ仕組みも

現在取り組まれている事業内容を教えてください

 店舗型の美容室「登なん」の経営と、独立した一つの部門としての訪問美容に取り組んでいます。訪問美容は、現在4人の美容師で行っており、約50法人と契約をしています。個人の方は登録ではなく、お電話をいただいてお伺いする形で約500人が定期的に利用しています。
 訪問美容は、美容師の免許があれば誰でもできますが、福祉美容師やケア理容師、ビューティーセラピストなど、様々な団体が独自に資格を作り、質にもばらつきがあります。質の高い訪問美容を普及させていくために何とかしなければということで、完全登録制のプラットフォーム「サパット」をつくりました。独自の基準にのっとり、この人なら大丈夫という美容師に登録してもらい、訪問理美容を利用したい人がプラットフォームを閲覧し、サービスを受けたい理・美容師を選べるようにしています。
 現在、サブスクリプション形式で訪問理美容について動画で学び、集客・事業運営などを個別に相談できる仕組み「サパットプラス」も準備中です。2025年4月に開始しようと思っています。

EPISODE

誰のためかが大事 その人らしく過ごせる一助に

起業に向けてどのような準備をしましたか

 祖母が所有していた店舗の建物などを会社名義に変えるため銀行から借り入れを行いました。
 また、起業後ですが、IIB(岩手イノベーションベース)のメンバーになりました。リアルな資金調達の話や社員の問題など、メンバーが守秘義務を結んで何でも話すことができたので、今困っていることを具体的に共有できたのは大きかったです。経営者だと、どうしても社員にも家族にも言えないことがあります。共感してもらったり、ただただ悩みを吐露できる場があることがセーフティーネットになりました。

事業を進める上で大切にしていることを教えてください

 誰のためにという部分を大切にしています。利益追求の方針に振ることはいつでもできると思っていますが、それが本当に社会や地域にとっていいのかを常に考えています。

起業後の失敗体験、成功体験を教えてください

 起業をした当初は、介護や福祉の業界を全く分からなかったので、すごく迷惑を掛けました。新規の法人と契約をとろうと飛び込み営業をしていたのですが、訪問美容で涙を流して喜んでくれるお客様がいた経験から、どこの介護施設にもニーズはあると思っていました。実際は「施設利用者で美容に誰がお金を払うんだ」と施設運営者から言われることや料金の話しか聞いてもらえないこともありました。介護施設は全部一緒でお年寄りが住んでいるところというイメージしか当時はなく、今思えばいらないところに無理やり営業を掛けている感じだったのかもしれません。
 私は、寝たきりでも、認知症になっても、ベッドで排泄をして処理が大変でも、毎月1回美容師が来るから楽しみだね、そういうポジティブな変化を持つことがすごく大切だと思っています。最近は「90歳のおばあちゃんだけれど紫色の髪にできますか」「金髪にしたいという男性がいるんです。TONANさんお願いできますか」と、施設から言われることも増えました。自分が思い描く、その人らしく人生を過ごしてほしいという考えが少しずつ施設の方と共有できていると感じます。

EPISODE

サービスの認知度高め 訪問美容を選択肢の一つに

今後の事業の展望を教えてください

 訪問美容というサービスを誰もが知っていて、美容室に行けなくなったら頼むことが選択肢の一つになる状況が作れればと思っています。来てくれる美容師も選べるようになればいいです。理想は、それまで行っていた美容室の人がそのまま施設や自宅に来てくれる世の中になるのが最終的なゴールだと思っています。
 訪問美容を提供していく中で美容師の給料や待遇の改善、キャリアの問題、休眠している人が復職するハードルを下げることなど、目指していきたい姿はあります。我々がサービスを広げていくことがそれを実現する一番の近道だと思っています。
 会社としては、最終的には上場という形にしてお客様の信頼につながるようにしていくことも目標です。

起業家にとって岩手県はどんな地域だと感じますか

 首都圏の方が起業にあたっての情報も人材も資金もたくさんあります。一方で、誰のためのサービスなのか疑問に感じる内容による起業も首都圏では多いと思います。その点で、岩手県の起業家の行う事業は誰のためにするかが明確です。地域の課題がある中で、自分たちがやるべきことがしっかり固まっています。だからこそ、その思いに賛同して応援してくれる人も多いのだと思います。
 行政の人や議員も比較的フランクにお話を聞かせてくださいと来ますし、その時にソリューションは我々が提供するので、まずはやってみましょうと言ってくれるのがありがたいです。

EPISODE

事業の価値は何か 自分の中で起業の理由を明確に

これから起業を目指している方へのアドバイスをお願いします

 起業をしても、この事業の価値は何かまで落とし込めていないことが非常に多いです。何となく売れているからいいというところで止まってしまいがちですが、お客様がなぜほしいのか、誰に対してどんな価値を生んでいるのか、極端に言うとこの人のためにやっていますと言えるくらいにならないと事業としては長続きしません。そこさえできてれば何とでもなると思います。

会社情報

会社名
株式会社TONAN
設立
2017年2月13日
代表者
代表取締役CEO 中田将太
所在地
〒020-0833 岩手県盛岡市西見前第18地割125番地9
企業ホームページURL
https://www.tonan-inc.com/